傀儡の恋
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いったい誰の仕業なのか。
ネットでのみ閲覧可能だったあの光景が衆目にさらされている。
「故意、だろうな」
同じ映像を見つめていたバルトフェルドがそうつぶやく。
「おそらく、コーディネイターにすべての責任を押しつけ、プラントを攻撃する口実がほしいんだろう」
彼の推測は当たっているはずだ。
「問題は、誰が流したか、だな」
これだけ絶妙なアングルで撮影されているのだ。最初から襲撃があることを知っていたに違いない。
そう続ける彼に、真実を伝えるべきかどうかラウは悩む。
「最初からそのつもりで計画をしていたか、だね」
戦っているのはコーディネイター同士だ。しかし、ザフトではないものがMSを確保するのは難しい。
以前の戦争の折に持ち出したのだとしても弾薬などはどこから入手するのかと言う問題も出てくる。
可能性があるとすれば、ジャンク屋ギルドか傭兵ギルドだろう。だが、そのどちらもマルキオが関わっている。情報が入ってこないはずがない。
それよりも、誰かが連中に武器を与えて煽ったのだという方が現実的ではないか。
「あり得るな」
確かに、とバルトフェルドもうなずく。
「あいつらの持っている機体そのものは今となっては旧型だ。だが、武器は最新型と言っていい」
ザフトから横流しされたとみるのが妥当だろう。そう続ける。
「問題は、何処まで絡んでいるかだな」
最低でも隊長クラスが関わっているのは間違いない。
しかし、それが本国に詰めている連中なのか。それとも周辺のコロニーにいる奴らなのか。地球上にいる人間七日によって中枢部への食い込み方が違ってくる。
「議長殿が何処まで知っているのか。一番の問題はそれだな」
言葉と共にバルトフェルドは意味ありげな視線を向けてきた。
「さて……全部知っていたとしても驚かないし、知らなかったと言っても不思議ではないね。あの男は興味がなければ最後まで意識を向けない」
視界に入ったとしてもいないものとして処理する。そう続けた。
「つまり今回のことも目に入っていたかもしれないが、意識の中に残っていない可能性があると?」
「否定はできませんね」
小さなため息と共に言葉を返す。
「もっとも、こちらにちょっかいをかけてくるとすれば、もう少しあちらが落ち着いてからになるでしょう」
どうやら、あの男はこの映像が撮られたときに本国にいなかったらしい。
だから、対応が後手に回っているのだとか。
珍しくブレアから届いたメールにそう書いてあった。
それについてはかまわない。
彼は彼なりに忙しいのだろうと知っている。だから、ほぼ《一族》から見放されている自分にまで注意を払うのは難しいはずだ。
いや、下手に関わったら彼自身に危害が加えられるのかもしれない。
それを考えれば無理は言えないだろう。
それでも、もう少し説明がほしいところではある。
「なら、最優先すべきなのはカガリの安否確認だな」
こちらの事情を知らないバルトフェルドは頭をかきながらこう言ってきた。
「……どうやら、地球に降下したザフトの艦に乗り込んでいるようだがね」
少なくともアスランは、とラウは続ける。
「なぜ、そう思う?」
「アスランの操縦の癖がある機体が映っているからだよ。色から判断して一般兵士用の機体だと思うが」
この言葉にバルトフェルドは例の画像を逆再生していく。
「……確かにいるな。何をしているんだ、あいつは」
あきれたようにバルトフェルドがつぶやいた。
「斜め上に動くのは彼が得意とするところだと思うが?」
「辛辣だな、ずいぶんと」
あきれたようにバルトフェルドがこう言ってくる。
「色々とあったからね」
本当に、とラウは苦笑を返した。
「おかげで巻き込まなくてもいい人間を巻き込む羽目になった」
それが何をさしているのか、彼にはわかるはずだ。
「確かにな」
深いため息と共にうなずかれる。
「ともかく、俺たちはそのザフトの艦の特定に取りかかる。あちらのフォローは任せた」
体よく仕事を増やされたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「仕方がないですね」
だが、こう言い返す以外道は残されていない。せめてもの抗議の印に大きなため息を一つ、ついて見せた。